- 【主な内容】
SWAG HOMMES ISSUE21
HOLIDAYS 2024
ハイファッション ヴィジュアル マガジン SWAG HOMMES ISSUE21“HOLIDAYS 2024”がローンチ。色づきはじめた鮮やかな深紅が広がる壮大な自然と調和するジルサンダーのカバーストーリー, パーティシーズンを演出する特別な日のためのテーラードスーツ特集, リストウォッチ, ジュエリー, バッグ, レザーシューズ……モダンかつタイムレスなプロダクトが光るホリデーギフトたち, エルメスを装う俳優の上杉柊平とめぐる鎌倉の名所, 俳優の清水尋也が着飾るシャネル, カナダ・バンクーバー出身の兄弟バンド, Gliiicoが纏うヒステリックグラマーほか, ロエベ, セリーヌ, ルイ・ヴィトン, バレンシアガ, モンクレール, Y-3……感性を刺激する鋭敏なファッションエディトリアルをフィーチャー。表紙は2パターン, ハイクオリティ紙を採用したオールカラー196頁, “HOLIDAYS”をテーマに, 多彩な物語(ファッションストーリー)を紡ぐ。
“聖なる夜と, 幸福な王子”
聖なる夜, 枕もとに靴下とメッセージをそえてサンタクロースに願いつづけたこと, はじめて口にするローストチキン, 母親がつくってくれたくずれかけのふわふわのショートケーキ, 子供向けのシャンパンで乾杯したこと, クラスメイトの家でプレゼント交換したこと, バイトして貯めたお金で買ったティファニーのネックレスを握りしめてディズニーランドへ行ったこと, 野郎だけでクラブで朝まで踊り明かしたこと……クリスマスが近づいてくるとなぜだか, あの匂いや香り, 温もり, それに音楽までが染みついたまま, あのころの思い出が鮮明によみがえってくる。
たまには, 懐かしいレコードでも聴いて, そんな思い出に浸るのもわるくないなと, レコードと本をおさめているラックをあさっていたら, ふとオスカー・ワイルドの童話集「幸福な王子」が目について, 久しぶりにページをめくってみることにした。
町の空高く, 高い円柱の上に, 幸福な王子の像が立っていました。全身うすい純金の箔(はく)がきせてあり, 目にはふたつのきらきらしたサファイアが, また大きな赤いルビーが刀の柄(つか)に輝いていました。
一日じゅう, つばめは飛びつづけ, 夜になってこの町に着きました。「どこに泊まろうかな? 町で用意をしてくれてるといいんだがな」。そのとき, 高い円柱の上の像が目にとまりました。「あそこにとまろう。さわやかな風のかよういい場所だ」。そうして幸福な王子の両足のまんなかにとまりました。「金の寝室ができた」。あたりを見まわしながら, つばめはそっとひとりごとを言って, 寝る支度をしました。ところが, 頭を翼の下へ入れようとしていた, ちょうどそのとき, 大きな水のしずくが体にたれかかりました。
幸福な王子の目が涙でいっぱいになり, 黄金の頬(ほお)を涙が流れ落ちていたのです。……「あなたはどなたですか?」。「わたしは幸福な王子だ」。「それじゃあなぜないてらっしゃるのです? おかげでびしょ濡れになってしまいましたよ」
「わたしが生きていて人間の心をもっていたころは, 涙とはどんなものか, 知らなかった。 無憂宮(サンスーシ)に住んでいたからで, そこへは悲しみがはいることを許されていないのだ。昼間は仲間と庭で遊び, 夜になるとわたしは大広間で舞踏(ぶとう)の先頭に立った。庭のまわりにはとても高い塀がめぐらしてあったが, その塀の向こうには何があるのか, 聞いてみたいとも思わなかった。まわりのものがみんなそれほどきれいだったから。廷臣(ていしん)たちはわたしを幸福な王子と呼んだし, わたしもじっさい幸福だったのだ, もし快楽が幸福であるとしたらね。そんなふうにわたしは生き, そんなふうにわたしは死んだ。ところが死んでしまうと, みんなはわたしをこんな高いところに立てたものだから, わたしの町の醜(みにく)さとみじめさがすっかり見えてしまうのだ。そしてわたしの心臓は鉛(なまり)でできてはいるが, それでもわたしは泣かずにいられないのだ」
「ずっとむこうの小さな通りに, 貧しい家が一軒ある。窓がひとつあいていて, テーブルに向かって座っている女の姿が窓ごしに見える。顔はやせて, やつれており, がさがさした, 赤い手, 針の跡だらけの手をしている, 針子なのでね。女王の官女のなかでいちばんきれいなひとが, 今度の官中舞踏会で着る繻子(しゅす)のガウンに, トケイソウを縫いとっているのだ。部屋の片隅の寝台に, その女の小さい男の子が病気で寝ている。熱病にかかっていて, オレンジをほしがっている。母親には川の水しかやるものがないので, 子供はおいおい泣いている。つばめさん, つばめさん, 小さいつばめさん, この刀の柄(つか)からルビーをはずして, その女のところへ持っていってやってくれないか? わたしの足はこの台座に作りつけになっているので, 動けないから」
冬が迫り, 仲間のいる暖かいエジプトに早く渡りたいつばめだったが, 死後に住民たちのみじめさに気がついた王子を憐れみ, 王子の願いを叶えるために使者となっていく。刀の柄にきらめく赤いルビーを貧しい親子へ, 目に輝くサファイアを, 寒さで字を書けない劇作家の青年と売り物のマッチをドブに落としてしまったマッチ売りの少女へ, さらには純金で覆われた箔を, つばめが一枚一枚ひき剥がし貧しい人々のところへ……。
とうとう鈍い灰色の体になってしまった王子を置き去りにして, エジプトへ行こうとはしなかったつばめは, しだいに寒さとともに衰弱していく。「さようなら, 王子さま! お手にキスさせてくださいませんか?」。「わたしのくちびるにキスしなさい, わたしはおまえを愛してるいるのだから」。最期に, 心から愛していた王子のくちびるにキスをすると, 王子の足もとへ落ちて息絶える。その瞬間, 何かかがこわれるような, びしりという奇妙な物音が像の内側で鳴り響き, 鉛の心臓が, ぱちりと真っ二つに割れてしまう。あくる朝, 像を見上げた市長が, 「おやおや! 幸福な王子はなんて見すぼらしい!」。「まったくのところ、乞食(こじき)も同然だ!」と, 像を引きおろし, つばめの死骸がころがっている塵(ちり)の山へ, 鉛の心臓を投げ捨てたのだった。
「町じゅうでいちばん貴(とうと)いものをふたつ持ってきなさい」と, 神さまが天使の一人に言われました。そこで天使は鉛の心臓と死んだ小鳥を神さまのところへ持っていきました。「お前の選択は正しかった」と, 神様は言われました。「天国のわたしの庭で, この小鳥が永遠に歌いつづけるようにし, わたしの黄金の町で幸福な王子がわたしを賞(ほ)めたたえるようにするつもりだから」
アイルランドに生まれ, 「ドリアン・グレイの肖像」,「サロメ」ほか数々の名作を残し, 豪華絢爛で快楽と芸術を愛し, 女性雑誌の編集長時代はダンディな服装の社交家としてその名を馳せるも, 人生の終盤は同性愛行為の罪で投獄され, 出獄後まもなく移り住んだパリで破滅的な死を遂げた詩人, 作家のオスカー・ワイルド。美と反逆に彩られた46年間の生涯のなかでも最高傑作とたたえられる「幸福な王子」は, 1888年5月, ワイルドが34歳のときにロンドンの書店, デイヴィッド・ナットからリリースされた。
今もなお, 世界中の子供から大人にまで読み継がれている残酷ながらも心温まるワイルドの美しいストーリーテリング。本当の幸せとは, 本物の愛とは, 何なのだろうか, 幸福な王子のそんな魂の声が聞こえてくる。
今年も, そろそろ夜の街がきらめこうとしているようだ。聖なる夜が, 気の知れた家族や友人, 彼氏や彼女, あるいは故郷(ふるさと)で待つお父さんやお母さんやおいじちゃんやおばあちゃんたちと, 愛に満ちあふれた思い出になることを切に願いたい。
SWAG HOMMES 編集長 奥澤 健太郎
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